猪名川町役場の隣に建つ町立静思館(旧冨田邸)は、昭和62年には「ひょうご住宅百選」に選ばれ、平成16年6月に国登録有形文化財として登録されました。この屋敷は、昭和7年から3年の歳月と当時の金額で10万余りという莫大な資金とをかけて故冨田熊作氏が建てたものです(昭和7年の国家予算は約204万7千円)。敷地は約2500㎡、18棟が文化財として登録されています。昭和59年に猪名川町が購入、人々の憩いの場として、また様々な催しの場として使われています。
冨田熊作氏は明治5年上野村(現猪名川町上野)で生まれ、世界的美術商の山中商会などのロンドン支店長として25歳から50歳までを過ごしました。中国陶磁では欧州一ともいわれるバウアー・コレクションは彼の選定によるものです。
大正11年に帰国し、京都で古美術商を営みつつ、故郷に農家を模しながらも隅々までその審美眼を光らせた数奇屋住宅を建てたのです。
彼の息子健治氏は、近衛内閣の書記官長などとして中央政界で活躍し、戦後は衆議院議員として地元上野から出馬しました。
長屋門
門前の雨落(あまおち)は「貴船石」という貴重なものです。門の敷居をはずすと、人力車や車が入れるようになっています。
貴船石の雨落
溝縁石や蓋石は花崗岩で、手仕上げによる素晴らしいものです。
※貴船石:京都貴船川産で、雨 の日でもすべらない。現在で は手費は入らない貴重な石。
氷 室(ひむろ)
冷蔵庫のなかった時代、食物などの保冷に使った所です。
奥行は約20m、左右に3ヶ所ずつ枝分かれしています。
戦時中には防空壕としての役割もありました。
乾蔵・中蔵・衣装蔵
土蔵造りの2階建て、切妻の瓦葺きです。
道具部屋と炭部屋。
台所の向かいに作られている。木瓜型の窓が美しい。
その奥は味噌部屋で、板戸は弁柄塗りです。
給水塔
民家としては県内で初めてといわれる水洗トイレのための施設。
井戸水をポンプで汲み上げて貯水し、使用しました。
書斎蔵
畳の下に厚さ1cmの鉄板を敷き、地下室を火床として利用していた。
部屋の暖房に朝鮮式の床下暖房「オンドル」が使われていた。
この中に火床がある。
手前は二つある台所間のうちの上台所(10畳)、その左奥が中の間(8畳)で、熊作氏の居室です。
台所の間との間の敷居が高くなっています。これは、昔の農家の作り方で、冬は藁束を敷き詰めて暖をとっていましたが、編んでいない藁だったので隣室にこぼれないための工夫だったのです。
土 間
大きなかまどがありますが、昼食時は大変な賑わいだったのでしょう。当時の使用人の数は、男性が12名、女性が3〜5名いたということです。